準備は万端【短編】
そんなわけであたしたちはピクニックに行くことになった。

顔を洗い、髪をとかして、日焼け止めとグロスだけ塗って、部屋を出た。

あたしはすでにおなかがぺこぺこで思わずバスケットの中を覗き込もうとしたら、ああ、もう、だめだって、食いしん坊だなあ、と圭ににらまれた。

コンビニでいちばん安い赤ワインを買って、バスケットに突っ込んで、電車を乗り継いで、森林公園に。


「さあ、ごはんだ。ごはんにしよう。しようったらしよう」

公園にたどりつくやいなや、いちもくさんに芝生を目指そうとするあたしをたしなめるように、

「いきなりかよ。ちょっと待てって。ボートに乗ってからにしよう」

圭が言った。

そしていつになく強い力であたしの手を引っぱって、ボート乗り場に向かう。

ばかみたいだ。

そんなことぐらいであたしは、初恋中の中学生みたいにドキドキしてしまったんだった。
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