準備は万端【短編】
てっきり二人乗りボートに乗るんだとばかり思ってたのに、圭は迷わずスワンボートに乗り込んで、子どもみたいな声をあげて鬼漕ぎした。

「ほら、おまえもちゃんと漕げよ」

と圭はしきりに言うのだけど、二日酔いのあげく空腹のあたしにそんな元気はなかった。

「大体、いい年したカップルがなんでスワンボートなのよ、恥ずかしい。それにこの池でボートに乗ると、カップルは必ず別れるって話知らないの? 有名だよ?」

意地悪のつもりで言ってやると、あたしの隣できこきこペダルを漕いでいた圭が大真面目な顔でこちらを見た。

「だったら、その伝説を俺たちが破ってやろうぜ」

と言って、にかりと笑った。

悪ガキみたいな笑顔だった。
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