準備は万端【短編】
圭はあたしの恋人で、同居人(正確にはあたしの部屋に勝手に転がり込んできた居候)だ。

彼の悪癖が再び顔を出したことに、あたしはいまさら失望したりなんてしなかった。

いいかげん慣れてしまった。

呆れかえってしまってる、といったほうが正しいかもしれない。


圭はRPGゲームの新しいソフトが出るたびに仕事を辞める。

ひとたびゲームをはじめると、人間らしい生活を営むのは不可能になるらしく、インスタントラーメンと攻略本、非常食のカロリーメイトにウィダーインゼリー、おやつのスナック菓子と炭酸飲料、カートン煙草、その他もろもろを買い込んで部屋にこもる。

シマリスの冬眠か、とつっこみを入れたくなるぐらいの勢いで。


ゲームにのめりこんでしまうと、風呂も睡眠もトイレに立つ時間すら惜しんでひたすらピコピコピコピコ。

あたしなんかいてもいなくても同じで、話しかけても返事は返ってこない。

まだはじめたばかりだからか、そこまでの症状には陥っていないらしい。

ゲーム開始、数時間といったところだろうか。

いまはただ、新しいゲームをやれることがうれしくてしかたなくて、これからはじまるであろう大冒険にわくわく胸をおどらせ、あたしにもその喜びをちょろっとわけてやろう、という余裕のようなものが見てとれる。

こっちはまったく望んじゃいないけど。



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