準備は万端【短編】
女性誌なんかで「理想の男性」なんていう特集が組まれたりすると、決まって出てくるものに「少年の心を持った男性」「子どものようにピュアな部分を忘れていない男性」とかいうのがあるけども、ピュアネスを胸に秘めた大人と、ただのガキとのあいだには、超えられない壁が三つか四つ、いや10や20はあると思う。

それをカンチガイしてる女が、この手の男を増長させるのだ、きっと。


理不尽だってわかってるけど、これまで圭がつきあってきた女たちを恨まずにはいられない。

嫉妬なんかじゃなくて。

どうしてこんな男にしてくれたんだ、と。

あんたたちがこんな男にしてしまったんだ、と。

自分だって共犯者のくせして、その事実からは目を背けて。


「仕事どうしたのよ」


ため息をつきながらあたしは訊いた。

一ヶ月ほど前から、圭は近所のカフェバーでアルバイトをしている。

いろんな種類のカクテルの作り方や、洒落ていておいしいお酒のつまみレシピなんかが学べるのだといって、毎日、嬉々として仕事に出かけていたはずだった。

天職かもしれないとまで言っていたのに。

単純で染まりやすい圭は、仕事を変えるたびにそんなようなことを口にするのだけど。

今日は金曜日。

一週間でいちばん忙しい日のはずだ。

休んでいいわけがない。


「あー……、やめちゃった? みたいな?」


いたずらを見つかった子どものように背中を縮めて、圭が言った。


視線はテレビのモニターから外さずに。


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