準備は万端【短編】
そのときだった。

予告もなしに部屋のドアが開いて、そこから圭が顔をのぞかせた。

「おはよう。めずらしいな、もう起きてるなんて」

昨晩あったことなんて嘘だったみたいに、なにごともなかったように飄々と笑う。

わけもわからずだーだー涙を流しているあたしにおかまいなしに、圭はずかずか上がりこんできて、あたしの頭をよしよしと撫でた。

それからとびきりの笑顔でこう言った。

「ピクニックに行こう。いい天気だよ」

床に転がったワインの空き瓶を見て、あらら、と顔をしかめる。

「ワインぜんぶ飲んじゃったんだ? オッケー、わかりました。途中で買っていこう」

そう言って手に持っていた大きなバスケットをひょい、と持ち上げてみせた。

「お弁当もあるし、準備は万端」




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