死なないヒト
ゲイトが口を挟んだ。ゲイトは少し酔っている様だった。持ってきた瓶の中身は半分を切っていた。
「ありがとう。ゲイト。」
トラムは微笑んだ。
「戦場を通して自分の死も、あの人の死も考えた。死の後に何があるのか…と。その先は天国か、地獄か。それとも、何も無いのか。その先を知る事を恐れている。戦争で死んだ者は皆、不幸な死に方だ。あの人もそうだ。だから、せめて、あの世だけでもと思うんだ。」
トラムは酒を飲んで、一息ついた。
「天国を信じているのか?」
ゲイトはトラムが、非現実的な事を信じているのに驚いた。
「そうじゃないと、残った者はあまりにも悲しい。だから、俺はその先が分からない事を望んだんだ。」
「だから、死の無いクローン権を得ようと…?」
「その代償は、政府の所有物になる事だ。」
トラムは立ち上がり、漆黒の空を見上げた。
「遠い未来、俺がいた事を忘れないでくれ。」
ゲイトはトラムに言った。
「ああ。忘れない。ゲイトの事も、そして、あの人の事もずっと…憶えている。」