死なないヒト
マアアートの笑みに本能的な恐怖を感じた。それにしても、とんでもない人物に見込まれたものだ。トラムはため息をついた。
「貴方は人類の先を行く者になるの。」
マアアートはくすくす笑った。新しい研究対象を見つけ、喜んでいるようだった。
「俺は忘れたくない人々がいる。そして、この先もそんな人と会うかもしれない。だから、協力するよ。これは俺の意思だ。」
トラムは彼女を見つめた。自分が自分である為の最後の抵抗でもあった。クローンになれば、自分の意思など通す事もできなくなる。この先のクローンとしての自分を自分の意志で決められるならば、決めておきたかった。それに、ゲイトとの約束も破りたくなかった。
一方、マアアートは驚いていた。
「そう言ったの貴方が初めてだわ。研究の被験者達は皆、自分の意思ではなく、命令に従ったまで。」
「何人かいるのか。」
話しぶりからして、実験させられる人間はまだいるようだった。
「ええ。選りすぐったクローン達よ。もう、何世代か実験しているわ。」
すると、マアアートはトラムを見つめた。
「何?」
トラムはマアアートに聞いた。
「貴方に『アダム』という名をあげましょう。全てのクローンの祖となるように。」
マアアートは微笑んだ。その微笑みに昔死んだ母の面影を感じた。
「ドクター。」
向こうから一人の男が声を掛けてきた。彼の顔には軍用クローンを示すマーキングがしてあった。
「レール。紹介しておくわ。プロジェクトの新しい参加者のネイト・トラム。こちらはレール。被験者で、今回3回目の再生。」
マアアートが紹介すると、レールは黙って握手をしてきた。