紅の葬送曲
「私が……寿永隊長のお父さんを殺した……?」
そんな訳がないと信じたい。
でも、その光景は忘れていただけで、昔実際に見た記憶がある。
その返り血の感覚を、匂いを思い出した。
もう紅斗と私が兄妹で、寿永隊長のお父さんを殺した事実が覆ることはない。
その記憶を思い出してしまったから。
「そうだよ、僕らが殺した!思い出したんだね、紅緒」
私に駆け寄ってこようとする紅斗の足元に、拳銃の弾がめり込んだ。
「黙れ、紅斗。今度は眉間を撃ち抜く」
刀を持っていない方に拳銃を構えた寿永隊長は殺したい衝動を堪えているとか、肩を震わせていた。
「んー、じゃあ、帰ろうかな。また来るよ、紅緒」
拳銃を向けられた紅斗は手負いの獣の耳をした男を楊蘭に支えさせ、その場から消えてしまった。
「……二人を運ぶぞ」
紅斗がいなくなったのを確認した寿永隊長は意識を失ってしまった小鳥遊さんを抱えて歩き出した。
私も意識のある小鳥遊君に手を貸して歩き出そうとしたら、手を振り払われてしまった。
「大丈夫、一人で歩ける」
彼は首を押さえながら寿永隊長の後を追って歩き出した。