紅の葬送曲
「ああ、ただいま」
その人は顔を上げると、私の姿を見つけて目を細めた。
「浅井紅緒様ですね。私は寿永君の執事をしております、雨宮と申します。奥様がお待ちです、お二人共こちらへ」
そう言って、雨宮さんは歩き出した。
淡々としていて仕事が出来る人なのは分かる。
でも、さっき目を細めた時の雰囲気……。
それは私を≪犯罪者の娘≫として見る嫌悪の目に似ていた。
私は寿永本邸の敷地内に入ったことで寿永隊長にずっと握られていた手を彼から離された。
でも、私は不安で仕方なかった。
屋敷までの道を歩いているけど、一歩が重い。
心臓が痛い……。
「どうぞ、お入りください」
雨宮さんが入り口のドアを開けたから入らない訳にも行かず、私は寿永隊長の後に次いで中へ踏み入れる。
中へ踏み入れば広大な吹き抜けの玄関が広がり、正面には螺旋階段が、天窓から春の陽射しが入り込んでいる。