紅の葬送曲
寿永隊長はその部屋のドアをノックもせずに開け、室内に踏み込んでいく。
広い室内は壁一面に本が収納されていて、大きな格子窓からは春の陽射しが差し込んでいる。
その室内の窓際の中央にはデスクがあり、そこには一人の女の人がパソコンと向き合っていた。
「ノックも無しなの?凌」
パソコンから顔を上げたその人は寿永隊長に似た風貌をしていた。
この人は多分、寿永隊長の母親だ。
私はこの人に呼ばれたかと思うと、背筋が自然と伸びた。
「無理矢理呼んだのは貴女でしょう。俺は貴女とは会いたくないし、話したくもない。汀に余計なことを吹き込んで……」
寿永隊長は怒りを露に、彼女を睨み付けている。
「私はあの子に事実を教えただけよ。あの子の父親が何故死んで、誰のせいなのかを教えただけ」
パソコンを閉じると、デスクの上で指を組んだ。
「……貴女が浅井紅緒さんね」
そして、その眼差しはまっすぐ私へ向けられている。
汀様達と同じ目だ。
私を恨んでいる目だ。