紅の葬送曲
そうだ、彼はこの人に≪寿永の為に死ね≫と言われたんだ。
誰よりも愛してほしい親からそんなことを言われたんだ。
「私は凌の為を思って言っているのよ」
「余計な世話だ。それに家の為に死ねって言った息子を心配して、今さら母親面か?人を舐めるのもいい加減にしろ」
彼の言葉は親に対する言い方じゃない。
でも、そんな言葉をぶつけたくなるほどの言葉を彼は母親から言われている。
すると、開け放たれたままのドアの所に汀様が現れた。
多分、母親と兄の険悪な関係に気付いていて、心配で見に来たんだと思う。
「愛されるはずの親にそんな事言われた俺の気持ちがアンタに分かるか?分からないだろうな、所詮アンタは子の命より寿永の名前が大事なんだろ?」
「凌、私は──」
「……残りの一年くらい俺の自由にさせてくれ」
寿永隊長の切実な願いに、彼女の目が動揺で揺れた。
彼の自由になりたいという願いに動揺したんじゃない。
残りの一年というところに動揺したんだ。
もしかして、この人……。
ふと、別の部屋からこの部屋に通じるドアがゆっくりと開いた。
そこには一人のメイドがいて、様子が変だ。