紅の葬送曲
「琉介、心配するな。僕は大丈夫だ。何の為に記憶を無くした振りをしてあの男に近付いたと思ってる?」
「そうだが……。でも、俺はお前には人殺しになって欲しくなかった……」
「……僕は人を殺してない。安心しろ」
赤目の彼の言葉に、もう一人の青年は怪訝そうな顔をする。
「詳しくはまた話そう。そろそろ時間だ」
そう言って赤目の彼は廃屋の中に戻って行ってしまった。
薄暗い廃屋の中を進むと音もなく、一人の男が現れる。
「何処に行っていたんですか、紅斗様?」
「散歩だ。……それより、いつまで浅井秀人の格好でいるつもりだ、明晴」
赤目の彼は男を睨み付けると、男の姿は一瞬にして獣耳をした男──安倍明晴へと変わる。
「申し訳ありません。永らくこちらの格好をしていたので、こちらの方が落ち着くのです」
「不愉快だ、止めろ」
赤目の彼は明晴を睨み付けると、薄暗い闇へと消えた。