紅の葬送曲
Ⅴ
「──その後、記憶を消されなかった僕は県外の人里離れた孤児院にたどり着き、安倍明晴から見つからずに此処までやって来れた」
話し終えた紅斗は顔を伏せ、うつ向いてしまった。
私が忘れ、安倍明晴の元で幸せに暮らしていた時、紅斗は一人でその記憶を抱えながら安倍明晴の追跡に怯えながら暮らしていた。
それがどんなに辛かったのかは今の紅斗を見れば分かる。
「琉ちゃんとは……何処で……?」
声が自然と震えてしまう。
「俺とは高校のときだ。俺がロードバイクのスポーツ特待で行った高校に紅斗がいた」
琉ちゃんは私が安倍明晴と暮らしていたアパートの隣の部屋にお母さんと住んでいた。
母子家庭だったから学費免除のスポーツ特待で高校に進み、高校三年間は県外にいた。
そして、こっちに戻ってきて警察の機動隊に配属された。