紅の葬送曲
「……ねぇ、今の言葉の意味って何なの?俺、ドイツ語の発音意味不明で理解出来ないんだよね」
ふと、江が不満そうに唇を尖らせていた。
……理解してなかったのか、お前。
苦笑いを浮かべていたから理解していたかと思っていたが、理解してなかったらしい。
そういえば、江は高校の選択科目ではロシア語とイタリア語を選んでいたな……。
「《Es ist zu einfach zu gähnen……》。訳すと単純すぎてあくびが出る……だよ」
「紅斗、ドイツ語分かるの!?」
「一応、僕はマルチリンガルだよー」
「マルチリンガルとか凌と一緒!?」
紅斗が頭が良いのは分かっていたが、まさなマルチリンガルだとは思わなかった。
まあ、それは良いとして……。
「宣戦布告をされたなら、俺もしておこうか。……Sieht süß aus, wirst du schmerzhafte Augen sehen」
「またドイツ語!?」
江は紅斗に訳してもらおうと奴を見るが、紅斗は苦笑いを浮かべて俺を見ていた。
「凌君、君もなかなかの腹黒だよね」
腹黒で結構だ。
俺は紅斗の言葉を聞き流すと、開いていないドアの方を見た。