紅の葬送曲
「穏やかな寝顔……、久々に見た気がするわ。余程貴女を信頼しているのね」
彼を見る操様の眼差しは穏やかだ。
これが≪お母さん≫なんだ……。
それは私が一度も感じたことがない母から子へ向けられる愛情なのだと理解する。
「いえ、そんなことは──」
「……そういえば、いつからかしら。凌に≪母さん≫呼ばれなくなったのは……」
「!?」
操様の悲しい呟きに私は肩を揺らしてしまった。
言われてみればそうだ。
寿永隊長が操様を≪母さん≫と親しみを込めて呼んでいる姿を見たことがない。
息子の彼が母親である彼女に向ける眼差しは──。
「ん……ん……?」
すると、眠っていた寿永隊長の瞼が揺れてゆっくり開いた。
「浅井……?どうし──っ!……何故、貴女が此処に?」
寝ぼけ眼だった寿永隊長だったけど、目の前にいる母親の姿に不愉快そうに眉をひそめる。
「別に何でもないわ。ただ、親の言うことを聞かない愚息の様子を見に来ただけよ」
操様はそう言うけど、本心は違うはずだ。
本当は姿が見えない息子が心配で探しに来たに違いない。
だって、操様は寿永隊長の母親なんだから……。