紅の葬送曲
そんな凌だけど、本人的には容姿のことや家のことを言われることを嫌がる。
母親である操さんとの折り合いが悪いこともあるかもしれないけど、何より≪普通の人と同じ≫ように扱ってほしい……それが凌の願いだ。
だから、その事を知っている俺や凌の周りにいる人達はそういう扱いをしない。
でも、凌の存在は異質だ。
本人は自覚していないかもしれないけど、名家の生まれと言う高貴な雰囲気が自然と出てしまっていて、自然と相手を萎縮させる。
そんな中であの子だけは違った。
特別扱いするどころか、初対面で平手打ちという今までになかったことを仕出かしてくれた。
それがきっかけだったのか、それとも他にきっかけがあったのか凌は彼女を……。
「凌、浅井ちゃんのことが気になるのは分かるけど変なことは起きないから安心しなって。彼女も凌が誰よりも大事だと思うし」
俺は敢えて彼女の名前を出して凌の肩を叩く。
女の子の名前が出たことと俺がチラリと睨んだことに、隣にいる二人組の女性が何事も無かったように視線を逸らした。
すると、凌は煩わしそうに俺の手を払うと睨み付けてくる。
「……余計なことを言うな」
不機嫌そうな凌だったけど、ポケットに入れていたスマホが鳴ったのか取り出して、ディスプレイを見る。