紅の葬送曲
「……え、凌って誰か好きな女いんのか?」
俺と芦葉さんの会話を聞いた羽取さんは呆気を取られたような顔で、パンケーキを口に運ぶ手を止めていた。
え、この人鈍感?
あれだけ分かりやすいのに……。
「才暉、鈍感にも程があるよ……。よくそれで伊賀の血を引いてるよね」
「何だ、一飛。お前は知ってんのか?誰なんだ?」
佐滝さんは軽蔑にも似た眼差しで羽取さんを見ると、彼に耳打ちする。
佐滝さんの耳打ちで聞いた言葉に、羽取さんは持っていたナイフとフォークを落とした。
そして、ガタリと椅子から立ち上がった。
「凌が恋……。相手はあの補佐官……、おもしれぇ!」
馬鹿……いや、羽取さんは楽しそうなことを見つけた子供のように目を輝かせる。
……釘差しておかないと面倒なことになりそうだ。
「……羽取さん、何か余計なことしようとするならその耳にぶら下がってるピアスを耳ごと引きちぎりますからね」
「し、しねぇよ!てか、お前、七砂と菖に似て言葉遣い悪いな」
「貴方に言われたくありません」
この恋が凌にとって生まれて初めての恋であり、最後の恋かもしれないんだ。
誰にも邪魔させない。
「……難儀だね、小鳥遊君」
芦葉さんは俺を見て小さく笑う。
──本当にこの人は何でもお見逃しか。
俺は凌が好きなあの子と幸せになるなら良い。
あの子が幸せならそれで良い。
俺は自分の気持ちよりも凌とあの子の方が大事なんだ……。
≪江side end≫