紅の葬送曲
とある廃屋。
「この役立たずが!」
頬を叩く乾いた音が廃屋に響く。
安倍明晴は平手打ちを食らわせたアンジェロを睨み付けると、その隣にいる琉介を見た。
「アンジェロも琉介も何をしているんですか?黒いノートのコピーを奪ってくるだけだと言うのに本当に役に立ちませんね」
琉介は反論しようとしたが、言葉を発することが出来なかった。
先程、芦葉侑吏の術によって口の端が切り裂かれ、その治療したお陰で鼻から下は包帯が巻かれているせいで話せないのだ。
話せなくはないのだが、口を少し開くだけで激痛が走る。
だから、反論出来ずにいた。
「あぁ、切碕様……。早く貴方様にお会いしたいと言うのに……」
安倍明晴は廃屋にある祭壇に置かれた崇拝する切碕の眠る棺に近付き、うっとり顔をする。
安倍明晴は切碕に心酔し、崇拝している。
しかし、それはもう仲間から見ても度が超えているようにも思えてくる。
「気持ち悪い……。切碕に触らないで欲しい……」
アンジェロは不愉快そうに眉をひそめると、平手打ちをされて口内が切れたのか血をプッと血を吐き出す。