紅の葬送曲
──嫌な予感が的中した。
床の真ん中が抜けた室内には当然ながら誰もいない。
その代わりにあるのは古ぼけた鳩時計、そして、窓際の椅子の上にはアナログ時計が付いた爆弾が置かれていた。
アナログ時計の残り時間は2分ほどで、12を差した時点で爆発する仕掛けだろう。
「ひ、寿永隊長!爆弾が……ッ!」
「分かっている。お前は逃げろ」
「寿永隊長は!?」
「俺は汀の挑発に乗ってやる」
寿永隊長の言葉に、私は目を見開いた。
汀様の挑発に乗るってどういう意味?
「……さっきの電話、あれは汀からだ。そして、あの電話の後メールが届いた。『勝負だ、兄さん。爆弾を解除して俺を見返してみてよ』って汀から来たんだ」
私の疑問を感じ取ったように、寿永隊長はそう答えた。
じゃ、じゃあ、つまりさっきの電話は汀様で、汀様は誘拐されていない……?
でも、何で汀様がそんなことをする必要があるのだろう?
「……もしかしたら、俺達兄弟も会話が足りないのかもしれないな」
自嘲気味に笑ってポツリとそんなことを呟くと、寿永隊長は爆弾の方へと近付いていく。