紅の葬送曲
しかし、操はもうこの笑顔を何年も見ていない。
夫を亡くして10年が経つ。
長男が笑いかけてくれなくなってから8年が経つ。
何故、長男が自分に笑いかけてくれなくなったかは分かっている。
長男に寿永を統べる者として亡き夫のように優れた人であって欲しいと厳しくしたからだ。
恐らく、長男は彼女が自分を愛していないと思っているだろう。
が、実際は違った。
「どうして、あの子まで……」
写真の上にポタリと彼女の頬を伝った雫が落ちた。
最愛の夫との間に生まれた最愛の子を愛さない親なんていない。
操もその親の一人だ。