紅の葬送曲
「周さんと約束したのに……」
最愛の夫が亡くなる前、彼女は彼と一つの約束をしていた。
『俺はいつ死ぬか分からない。だから、操、俺に何かあったら俺の分まで子供達を愛して、守ってやってくれ』
夫の願い通り、操は息子二人を愛そうとした。
しかし、長男は夫と同じ運命を背負っている。
愛しているのに運命に逆らい、苦しそうにしている長男を見ていると辛かった。
──愛さない方が……愛されていないと思っている方が息子は……凌は運命に逆らわずに、苦しまずに逝ける。
そんな考えが操の中で生まれた時には彼女は長男に冷たく接するようになっていた。
夫が望んだことはこんなことじゃないことは分かっている。
それでも、彼女は少しでも息子の苦しみを取り除きたかった。
愛しているからこその母の行いが逆に息子を苦しめているとは知らずに……。
「凌……、何処にいるの……?」
生きているかも死んでいるかも分からない息子。
亡き夫に良く似た目をした最愛の息子……。