紅の葬送曲
「早く母さんの所に戻ってきて……」
息子が戻ってきたら抱き締めたい。
もう何年も抱き締めていない。
温もりがあっても無くても、息子を抱き締めたい──。
愛してると伝えたい──。
それが今の操の願いだ。
「凌……」
操は写真を抱き締めると、その場にしゃがみこんで声もなく泣いていた。
その姿をドアの向こうから覗き見る影が一つ。
「ごめん、母さん……。俺のせいだ……」
影──汀は母に届かないくらい小さな声で呟くと唇を噛み締めた。
ただ、汀は優秀な兄に嫉妬しただけだった。
その≪だけだった≫がこんなことになってしまった。
「兄さん……」
汀は壁に寄りかかってその場にしゃがみ、体を小さく丸めた。
「お願いだから帰ってきてよ……、兄さん……」
顔を膝に埋めた汀の頬に涙が伝った。