紅の葬送曲
寿永隊長を返して?
それを私に言うの?
確かに私は寿永隊長に助けられてのうのうと生き延びたけど、元々言えば……。
「貴女に出逢わなければ、兄はこうならずに済んだ。貴女が兄の人生を狂わせたんです」
「……っ」
寿永隊長は確かに私と出逢わなければこうならなかったかもしれない。
誰かを守って死ぬことはなかったかもしれない。
でも──。
反論しようと口を開いた途端、目の前の光景に絶句する。
目の前には体を起こし、赤くなった頬を押さえる汀様。
そして──。
「このクソガキが。何自分のこと棚に上げて全部紅緒のせいにしてるの」
その汀様を殴り飛ばした紅斗は殺気を放ったまま彼を睨み付けていた。
「べ、紅斗!?」
私は我に返り、紅斗も駆け寄る。
紅斗の赤い目には明確な怒りが込められていて、その眼差しはまっすぐ汀様に向けられている。
汀様は口の中を切ったのか口角に伝った血を拭うと、執務室から飛び出して行った。
「汀様!」
「紅緒!あんなクソガキ放って置けば──って聞いてない!」
背後から紅斗の怒鳴り声が聞こえたけど無視して汀様を追いかけた。