紅の葬送曲
「汀様、待ってください!」
前を走る汀様は寿永隊長の弟だけあって、足が速い。
離されそうになるけど、私も足には自信がある。
それでも、追い付いたのは執務室から大分離れた翔鷹の入る外門でだった。
「何で追いかけてきたんですか?俺は貴女に暴言を吐いたのに……」
門に寄りかかりながらちらりと見てきた汀様に、私は膝に手をついたまま笑って見せた。
「分かりませんけど、追いかけないとって思ったら体が勝手に動いてました。刑事の条件反射ですかね?」
「そう……」
彼は私から視線を外すと、呆れたように小さく息を吐いた。
その姿は今は傍にいない上司の姿に重なった。
『お前という奴は本当に……』
そんな寿永隊長の声がしたような気がした。
「寿永た──」
「寿永汀だな」
寿永隊長の姿に重なった汀様に手を伸ばすと、野太い男の声がした。
汀様の背後には目出し帽を被った男がいて、周りもその仲間に囲まれていた。