紅の葬送曲
「──それじゃあ、俺はこの辺で。あ、そうだ」
病室から出ていこうとする汀様は何か思い出したように、こちらを見た。
「浅井さん。実は──」
「汀、何故こんな所にいるの?」
彼の言葉を遮るように聞こえたのは女の人の声──、彼の母親である操様の声だった。
操様は以前会ったときより痩せていて、目の下にもクマが出来ていた。
「か、母さん……何で此処に……」
「それはこっちの台詞よ、汀。何故此処にいるの?此処は人殺しがいるところよ、跡取りの貴方が来て良いところじゃないわ」
汀様を嗜めるように言った彼女は息子から私へ視線を移した。
え、今、汀様が跡取りって言った?
彼女は寿永隊長が生きていると信じていない……?
「貴女のせいで凌は死んだ。あの人も貴女のせいで死んだ。今度は汀も私から奪うつもり?」
「母さん、それは違う。父さんも兄さんも浅井さんを守ろうとして──」
「……彼女がいなければ、あの人も凌も死ななかったわ」
操様は憎しみの込められた眼差しで私を見てくる。
「ねぇ、何故貴女は生まれてきたの?貴女がいなければ私の愛する人達は死なずに済んだ。……貴女なんか生まれてこなければ良かったのに」
彼女の言葉が心に深く突き刺さった。
アナタナンカウマレテコナケレバヨカッタノニ……。
その言葉は私が一番聞きたくなかったものだった。