紅の葬送曲
「僕はもう……弟妹を失いたくないだ。僕が殺したのは律生だけで良い。紅斗まで殺したくない……」
抱き締められる腕の強さに、兄さんの想いの強さを感じた。
兄さんは僕と同じくらいの年に実の弟を誰よりも大事な友人を守るために殺した。
それがどれだけ苦しかったのかはこの腕の強さで感じ取れた。
もう失いたくない──。
そんな想いが強く感じられた。
「……僕が行かなかったら安倍明晴は切碕復活の為に紅緒を狙う。いや、もしかしたら奴はもう紅緒から血を奪っているかもしれない……」
「紅緒は奴に育てられたから有り得るかもしれないね。でも、紅斗が行かないといけない理由にはなってないよ」
「──っだから、紅緒を守るためなんだってば!僕が行かなかったら誰が行くんだよ!?」
抱き締める兄さんの体を突き飛ばして、兄さんを睨み付けた。
もう逆ギレだった。
自分の言い分を分かってもらえない子供みたいに駄々をこねて情けない。
情けないかもしれないけど、僕以外に安倍明晴達の元へ行ける人はいない。
この世に切碕の子供は三人しかいないんだから、僕がやらないと……。
「僕が行くよ、紅斗。僕もこの世に三人もいる切碕の子供の一人だ」
兄さんの言葉でハッとした。
三人≪しか≫じゃない。
三人≪も≫だ。
僕と紅緒、そして、摂紀兄さん……。
忌むべき切碕の子供は三人もいる。