紅の葬送曲
「……兄さんはダメだよ。死んだら好きな人を悲しませることになる」
「言っただろう、僕は依良達が幸せにならない限り自分だけ幸せになれないって。それに、紗也には僕よりももっとふさわしい男がいるよ」
そう言って兄さんは笑った。
……嘘ばかりつく人だ、兄さんは。
辛いくせに、弱音を吐かずに辛い思いをしている。
誰かに言えば楽になることも一人で抱えてしまう。
そういう所は紅緒に良く似ている。
「兄さんは狡い。紅緒も狡い。僕にだって誰かを守らせてよ……」
兄さんは蓬條さん家族と僕達を、紅緒は凌君の弟である汀君を守った。
でも、僕は誰も守れてない。
紅緒を守りたいけど、紅緒を守っていたのは凌君だった。
今の紅緒があるのは僕ではなく、凌君のお陰。
結局僕は口だけで誰も守れていない。
弱い自分が悔しくてうつ向いていると、兄さんが頭を撫でてくれる。
「……君はこれからだよ、紅斗」
兄さんはそれだけ言って何も言わなかった。
兄さんだってこれからだろ……。
その言葉は嗚咽となって吐き出される。
兄さんは誰が何と言おうともう意見を曲げない。
それなのに、何で僕は意見を曲げようとしている?
何で自分ではなく、兄さんに頼ろうとしている?
結局僕は弱虫なんだ。
逃げ出すことしか出来ないただの弱虫なんだ……。
≪紅斗side end≫