紅の葬送曲
「ちょっと良いか?」
ドアの向こうから聞こえた男の声に、「悪い、今日はこれで」と言って電話を切った。
そして、ドアの向こうの人物を室内へ招き入れた。
「どうした?下手に来るとバレるから来ないんじゃなかったのか?」
嫌味にも似た彼の言い方に、招かれた人物は苦笑いを浮かべる。
「相変わらず酷い言い草だな。仮にも俺は命の恩人だぞ?」
「別に助けろなんて言ってない。お前が勝手に俺を抜け道に引っ張り込んだんだろ。お陰で俺は行方不明扱い、容易に出歩けもしない」
「って言いながらも弟と藤邦と蓬條と連絡取ってるくせに。あ、紅緒も助けてたよな?自由に出歩いてんじゃん」
嫌味を根に持ったのか、男は少年の行いの揚げ足を取って言葉を続けた。
「……減らず口が聞けないように侑吏の術でその口をまた裂いてやろうか?」
「いや、遠慮する。あの術士の術はえげつないからもう味わいたくない」
男はげんなりとしながら口許を擦った。
「それで、俺に何の用だ?」
「ああ、これを渡そうと思ってな」
そう言って男は少年に小さな小瓶を投げた。
彼はその小瓶をキャッチすると、怪訝そうに眉をひそめた。
「これは?」
小瓶の中身は赤黒い液体で、見た感じですぐに誰かの血液だと言うことが分かる。
「安倍明晴が切碕復活の為に用意した紅緒の血だ」
男の言葉に少年は更に眉間のシワを深くする。