紅の葬送曲


え、誰?




私の名前を知っていて病室を訪れる位だから知っている人かと思えば、まったく知らない人だ。





ただ、その端正な顔立ちは誰かに似ている。






「あ、はい。私が浅井紅緒ですが……」





躊躇いながらも頷くと、彼女は私に近付いてきて肩を掴んできた。





「玖下さん……玖下摂紀を知りませんか!?」





「え、摂紀お兄ちゃん?」





こんなに血相をかいて、彼女は摂紀お兄ちゃんの何なのだろうか?





疑問を感じていると、また病室に人が飛び込んできた。





「病院の廊下は走るなって言ってるだろ、紗也!」





そこにいたのは彼女を追ってきたと思われる蓬條さんと詩依さんだった。





紗也?





紗也って蓬條さんの妹で、摂紀お兄ちゃんのことを好きだって言ってた女の人の名前だよね?





え、この超絶綺麗な人が紗也さん?






摂紀お兄ちゃん……、こんな人に好かれるとか贅沢すぎるよ……。




内心兄に対して呆れながらも私は肩を掴んでくる紗也さんを見た。






「兄なら昨日来ましたが……。紅斗と外に出て行って以来戻ってきませんでしたよ?」






昨日、紅斗と二人で病室を出て行った摂紀お兄ちゃんはあの後戻ってこなかった。






戻ってきた紅斗が「用事を思い出したって言って帰った」って言ってたけど……。





今思えば、あの時の紅斗の様子は変だった。






何と言うか何かを隠してるって言うか、悔しさが滲み出てたって言うか……。









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