紅の葬送曲


「戻ってこなかった?実は俺の所にも君の所に行ってくると言ったきり戻ってきてないんだ」





そう言ったのは摂紀お兄ちゃんが命をかけて守る主、蓬條さんだった。






戻ってない?





じゃあ、摂紀お兄ちゃんは一体何処に──。





ふと、マナーモードにして置いていたスマホがサイドテーブルの上で鳴った。






ディスプレイには≪非通知≫と出ているだけで、相手の名前が出ていなかった。






不審に思いながらも私は紗也さんに手を離してもらって、電話に出た。






「はい、もしもし?」





『あ、紅緒?』





「その声……摂紀お兄ちゃん!?」






電話の主は今話になっていた人物、摂紀お兄ちゃんだった。




「ちょっと今何処にいるの!?皆心配して──」






ふと、手元からスマホが抜き取られた。






「玖下、今何処にいる?」






私の手からスマホを抜き取ったのは蓬條さんで、怒りを込めた声で電話の向こうの摂紀お兄ちゃんに声をかける。





『え、、依良?あちゃー、まさかいるとは思わなかったな』





「戯れ言は良い。……お前、何を考えてる?」





『……依良にはお見通しでしょ?』





スマホを奪われたときに触ってしまったのかスピーカー設定にされていて、二人の会話は丸聞こえだ。






「分かってるから聞いてるんだ!何故、お前は死のうとしてる!?お前は俺が生きてる限り俺を裏切らないんだろう!?それなのに、何故──」





『……僕は依良を裏切ってないよ。それに、僕はたった二人の弟と妹を守りたいだけなんだ』





それだけ言って、摂紀お兄ちゃんの声は途切れてしまった。






蓬條さんは苛立った様子で電話を切ると、広瀬さんを見た。






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