紅の葬送曲
「──おやおや、やっと突入ですか。前置きが長い人達だ」
狐の耳をピクピクと動かしながら、安倍明晴は廃ビルの窓から下を見下ろしていた。
安倍明晴の足元には手足を拘束された傷だらけの赤目の少年がいた。
「どうやら、貴方がたを助けに来たようですよ」
安倍明晴は赤目の少年の腹部を蹴り上げると、彼の体は壁の方へと飛ばされる。
その飛ばされた方には同じく手足を拘束され、傷だらけでぐったりとした男がいる。
が、赤目の少年が縄で拘束されているのに対し、彼は手足をナイフで床に縫い付けるようにして拘束されている。
刺された手足から出血しているせいか、彼の顔は血の気がない。
「本当は切碕様のご子息に手を出したくは無かったのですが、あなた方の相手をしていたら私の大切にしていた小瓶が紛失してしまいましてね……」
安倍明晴は赤目の少年に近付くと髪を掴んで、顔を無理矢理上げさせた。
「だから、あなた方に責任を取って頂きたいのですよ」
薄気味悪く笑う安倍明晴の顔に、少年は口の中に溜まっていた血をプッと吐き出した。
安倍明晴はその血を能面のような笑顔で拭うと、少年の髪を掴んだままその頭を床へと押し付けた。
少年は小さく呻くと、歯を食い縛る。
「あの方の子といえど、許せないものは許せません」
安倍明晴の顔が狐の顔に変わると、少年の赤い瞳が大きく見開かれ──。
「……我々を裏切った罰は受けて頂きますよ、紅斗様」
──少年の叫び声が響き渡った。