紅の葬送曲
Ⅴ
廃ビルの中に入ると、やっぱり廃ビルだけあって老朽化が進んでいた。
町外れにあった廃屋よりかはましだけど、薄暗く不気味だ。
「何か出そうだね……」
「そういうこと言うの止めてくれますか、佐滝さん」
私は前を楽しそうに歩く佐滝さんの背中を叩くと、隣を歩く小鳥遊君の服を掴む。
「ビビりなんだね、浅井ちゃんって。あんなに勇ましい子だから幽霊とかも平気そうなのに」
「苦手というか見えなければ信じないけど、いかにも見えなそうな所は苦手なの!」
霊感のない私。
でも、こういういかにも出そうな所は苦手だ。
増しては私の傍には──。
「大丈夫だよ、浅井さん。此処には生き霊はいないから」
幽霊の見える芦葉さんがいる。
待って、生き霊はいないってことは違う霊はいるの?
壊れたおもちゃのようにギギギ……と芦葉さんの方を振り返ると彼は小さく笑った。
「安倍明晴達に殺されて成仏出来ない霊ならいるよ、此処。悪霊になりそうなのもいるし」
「だから、そういうこと言うの止めてくれますか!?」
私は平然とそんなことを言う芦葉さんを睨んだ。
すると、一番前を歩いていた羽取さんがこっちを振り返る。
「お前ら、少しは緊張感を持て!此処は敵の根城なんだぞ!?遠足かなんかと勘違いしてねぇだろうな」
厳つい見た目とは裏腹に、羽取さんは酷く神経質で真面目な性格をしている。
だから、緊張感のない私達の様子に腹が立っているんだろう。