紅の葬送曲
「大丈夫、緊張感は持ってるよ。何せ、20年越しに朱鷺の仇を討てるからね……」
不機嫌そうな羽取さんに、佐滝さんはそう返した。
朱鷺?
誰のことは分からないけど、切碕や安倍明晴に殺された人の名前なのは分かった。
「朱鷺だけじゃねぇよ。天河と菖の仇も討て──」
「ァアア゛アアアアァァ゛ァ゛アァァッッ!!!!!!」
羽取さんの言葉を遮るように、耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫び声が聞こえた。
今の声って……。
「紅斗!?」
「浅井ちゃん!?」
私は小鳥遊君と羽取さんの脇を擦り抜けると、悲鳴が聞こえた方へ走った。
今の声は間違いなく紅斗の声だ。
紅斗に何かあったに違いない。
エスカレーターを駆け上がると、私は悲鳴が聞こえた最上階である展望デッキに飛び出る。
「紅斗!」
私は展望デッキに飛び出すなり、目の前の光景に息を飲んだ。
「お早いお着きで……」
狐の耳をした男──安倍明晴が≪何か≫を持ってこっちを見ている。
その安倍明晴の足元では力なく横たわる紅斗が、少し離れた壁側には血の気が引いた摂紀お兄ちゃんがいた。