紅の葬送曲
私と紅斗を助けられる人はこの場にはいない。
私は反射的に腰のホルダーから拳銃を取り出すと、安倍明晴に向けた。
「これ以上近づけば撃つ!」
「貴方に撃てますか?──俺を」
狐の顔をしていた安倍明晴の顔がお父さんの顔に変わる。
「っ!?」
敵なのに、ずっとお父さんだと思っていたせいかお父さんの顔でいられる撃つのを躊躇ってしまう。
切碕復活のためとはいえ、安倍明晴は私を此処まで育ててくれた。
偽りだったとはいえ、愛してくれた。
そんな人……お父さんだと思っていた人を私は撃てるの……?
でも、撃たなければ殺される……。
そう思うと、自然とトリガーを引いていた。
──が、放たれた弾丸は安倍明晴に当たることなく、頬をかすっただけだった。
「残念です、紅緒……。……切碕様の為に死になさい」
そう言って、お父さんから安倍明晴の顔に戻ると安倍明晴は私と紅斗の方へ術を飛ばしてきた。
痛みを、死を覚悟した。
それなのに、痛みは一向に訪れない。
その理由はすぐに明らかになった。