紅の葬送曲
「琉ちゃん……?」
何処からか現れた琉ちゃんが私の前に立ち塞がり、安倍明晴からの攻撃を一身に受けていた。
琉ちゃんは私の方を振り返ると小さく笑い、力なくその場に倒れた。
「琉ちゃん!?」
紅斗をその場に寝かせて倒れてしまった琉ちゃんに近付いて体を揺するけど、反応はない。
何で……何で琉ちゃんは安倍明晴の仲間なんじゃ──。
「裏切りに裏切りを重ねるとは憐れな男ですね、司馬琉介。ああ、死んではいけませんよ、裏切り者にはそれなりの報いを受けてもらわなくては」
安倍明晴は羽取さんたちの攻撃を交わしながら、愉快そうに笑い声を上げる。
その笑い声は私からすれば、不愉快で耳障りでしかない。
こんな奴に育てられたかと思うと虫酸が走る。
こんな奴を父親だと思っていたなんて虫酸が走る。
「ああ……、その虫けらを見るような目……。何処と無く切碕様に似ている……」
安倍明晴の恍惚とした顔で嫌悪する実父に似ていると言われ、吐き気がしてきた。
「変態が……」
無意識に言った言葉に、安倍明晴は更にうっとりとした顔をする。
駄目だ、この男はもう私を切碕と重ねて見ている。
虫酸が走る……、気持ち悪い……。
私の全てが嫌だ。
安倍明晴に育てられた過去も切碕に似ている雰囲気も……。
全てが嫌だ。
「……そういえば、一つ良いものを見せてあげましょうか?」
ふと、安倍明晴はごそごそと着ている着物の袂を漁ると、私の目の前に何かを放り投げてきた。