紅の葬送曲
平手打ちされた小鳥遊さんは俯いてしまっていて、顔を上げようとはしない。
そんな彼女に、平手打ちをした張本人はため息を吐いた。
「……菖、顔を上げろ」
命令口調だけど、その声音は何処か優しかった。
でも、彼女は上げない。
上げないことに彼はもう一度ため息を吐くと、そのまま言葉を続けた。
「お前が言いたいことは分かってる。だが、聞き分けてくれ。……最後の頼みになるかもしれないんだ」
意味深な彼の言葉に私は頭を捻るが、小鳥遊さんは弾かれたように顔を上げた。
彼女の顔は今にも泣きそうだった。
「頼む」
そんな小鳥遊さんに彼は念を押すように小さく笑っていた。
「……分かり……ました……」
小鳥遊さんはぐっと唇を噛んで頷くと、目元を拭って私の方を見た。