紅の葬送曲
少しすると巻き上がった粉塵が収まり、視界がはっきりとして来た。
安倍明晴は腕や顔に傷を負っているが、あんなにもろに砲弾を受けた割りにはダメージは小さい。
そんなことより、安倍明晴は何でそんなにも忌々しそうな顔をしているのだろうか?
私達を見ているようにも感じたけど、その眼差しは私たちじゃない人を捉えている。
その人物に私は言葉を失う。
何で……。
「さすが、切碕の右腕。あの砲撃の中でしぶとく生きてるか……」
低く威厳のある声に、風に靡く漆黒の髪。
いつも私を守ってくれた広い背中が目の前にある。
目の前の人物に、自然と涙が溢れてきて頬に伝った。
やっぱり、彼は生きてた。
生きているとずっと信じてた。
助けに来てくれるって信じてた。
「やはり、生きていましたか……。貴方こそしぶといですね、寿永凌」
安倍明晴が忌々しそうな眼差しを向ける先には彼がいた。
行方不明になっていたはずの彼──、寿永隊長が立っていた。
前と変わらない悠然とした姿で──。