紅の葬送曲
「……人を愛するって良いことだよね」
すると、切碕は何の前触れもなくそんなことを言い、壁伝いに立ち上がった。
「摂紀、紅斗、紅緒」
そして、三人の子供の名前を呼んで、小さく笑った。
「僕の愛しい子供達……。君達を僕の呪縛から解放することは出来ない。それでも、一つだけ言わせて。──生まれてきてくれてありがとう」
切碕のその言葉に偽りは感じなかった。
心の底から思っていることを言ったのだろう。
父親からの思いもよらない言葉に、私と紅斗、摂紀お兄ちゃんは何も言えなかった。
言いたかったことを言えたことに満足そうな顔をすると、切碕は藤邦さんの方を見る。
「アリスちゃん、勝手かもしれないけど僕は君を愛せて良かったよ……」
「本当に勝手だよね、いつも……」
藤邦さんは苦笑いを浮かべながらも切碕に向ける拳銃を下ろした。
「アリスちゃん、あと凌君。君達の抱える呪いはもうじき解ける。……元々明晴が恨んでかけたものだ、明晴が死ねば解ける」
寿永隊長の呪いが解ける?
ということは彼は死なずに済む?
それが嬉しくて寿永隊長の顔を見上げるけど、彼の顔は険しい。
「……切碕、お前は──」
切碕は指を口に当ててしぃーというような仕草をすると、身を翻して割れた窓に足をかけた。