紅の葬送曲
まさか、切碕は──。
「娘を頼んだよ、凌君」
そう言い残して、切碕の体は宙へ投げ出されようとした。
「お父さん……ッ!」
私は反射的に切碕をそう呼んで、宙へ浮かぼうとする手を掴もうと駆け出した。
でも、掴もうとした手は空を切り、切碕の体は重力に逆らわずに下へ落ちていく。
「……っ」
窓の桟を掴んで下を見下ろせば、切碕は光の粒となって消えていく。
そして、その光の粒は暗くなりつつある空へと舞い上がっていく。
その光はまるで、夜空に光る星のようだ。
流れるように光の川を成しながら、切碕は空へと消えていった……。
──こうして、20年以上に渡って多くの人々を苦しめた殺人鬼は永久的にこの世から消えた。
自らの命を自らで終わらせてこの世から消えた──。