紅の葬送曲
彼は私と会ったことがないはずだ。
でも、今の言い方では過去に私と会ったことがあるような言い方だ。
それに、私が知らないことを彼が知っている。
彼は……私の失った記憶のことを知っているの?
知っているなら何で隠すの?
隠さなくてはいけないことなの?
「浅井さん、大丈夫ですか?」
考え込んでしまっていたようで、隣から聞こえた小鳥遊さんの声でハッとした。
「す、すみません。ぼうっとしていました」
もしかしたら、小鳥遊さんに聞けば何か教えてくれるかもしれない。
でも、何でだろう?
本能がその記憶を思い出すことを拒んでいる。