紅の葬送曲
しかし、彼はその運命を悲観しない。
悲観しないのは生に執着はないし、死にも恐怖はないからだ。
人はいずれ死ぬ。
それが早いか遅いかの違いだ。
ようやく咳が止まって深く息を吐いた彼は視線をベッドサイドチェストに向けた。
そこには幼い彼と弟、両親が映った写真が飾られている。
「……父さん」
彼はその写真の父をか細い声で呼んだ。
父を呼んだ彼の顔はまるで泣いているかのように見える。
涙は流さない、いや、流せなかった。
彼は泣き方を忘れてしまっていた。
自分の運命を悟り、名を呼んだ父が死んだその日から──。