昨日の夢の続きを話そう



前田さんが指差した土の上には、細い穴が長く続いていた。

平坦な校庭に埋められた綱引きのロープを、端っこを掴んでよいしょ!って持ち上げたら出来そうな感じの跡。


「香澄(かすみ)ちゃん。これ、モグラの跡だよ」
「え! この辺にモグラがいるんですか?」


驚いて、大きな声で言った私は、目を丸くした。
生まれてこのかた二十九年、モグラなんてゲームセンターくらいでしか見たことない。

本当にいるんだなぁ……。
私の中でモグラって、ツチノコと同カテだったからけっこうびっくり。


「リアルモグラトンネルだねぇ」


腰に手を当て、前田さんはぐるりと辺りを見渡しながら言った。
どうやらモグラは作業員がいない夜のうちに、広い発掘現場を横断したらしい。

ここは新しい道路が作られる予定の郊外の野原。
真横を高速に繋がる環状道路が走ってて、交通の行き来がけっこう激しい。
渋滞を緩和させるため車線を増やすことになって、その前に埋蔵物がないか調査している。

私は今、その発掘現場でバイト中。

野原をひたすら平地にならしたら、奈良時代か平安時代あたりの住居跡がいくつか出たので、今は図面を作る作業を手伝っているところ。


「前田さん、私、三脚持ちますよ」
「ありがとう、助かるわー」


前田さんから測量器に使う三脚を受け取って、私たちは出土品の位置を測る場所まで並んで歩いた。

十月になり、空は薄曇りで過ごしやすい。
けど夏は日差しが強くて、これまで会社勤めだった私はその突き刺すような刺激になかなか慣れなかった。
それに時代時代で何層にも積み重なった色の違う土を、次の色が見えてくるまで地道に丁寧に掘っていく作業は、かなり体力を使う。

炎天下で、汗をかいて毎日へとへと。
でもそれが、今の私にとても適した職場環境だった。

日光を浴びて汗を流し、誰かとなにげない会話をして、肌をこんがり焼いて帰宅したらお風呂にお湯を張ってちゃんと肩まで浸かり、倒れ込んだ布団の中でくったり眠る__。

それを繰り返していたら、体の調子がだんだん良くなって、朝起きられるようになったのだ。
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