昨日の夢の続きを話そう
「おいしー!」


赤くなった頬に手をあてて、海斗くんは大声で言った。
すごく温かくて、楽しくて、ずっと続いてほしいなと心から思うと同時に、例えようのないかなしさに包まれた時間だった。


休日出勤のパパがもう少しで帰ってくると言って、亜美と海斗くんは夕方には帰って行った。
私は最後にどうしても、砂岡くんにあの魔法のスープの作り方をもう一度聞きたかったので、お願いして一緒に台所に立った。


「キャベツとかブロッコリーは香りが良くないからあんまり適さないって言うかな。あと、ナスは色が悪くなる。でもまぁ、それも好き好きだよね。俺は普通に入れちゃうけど」


私が昨日、今日で溜めた野菜の皮を煮ながら、砂岡くんが言う。


「個人的にはネギの香りがあんまり得意じゃないから、自分で作るときは長ネギは使わないんだ。あと、大根の皮は少しつんとするかなぁ。流水でよく洗ったジャガイモの皮とか、カボチャのワタを使えば、甘くなるような気がする。」
「ほうほう、砂岡くん的にはジャガイモやカボチャがおすすめね」


私は新聞記者ばりに、砂岡くんの言葉を一字一句メモを取った。


「随分熱心に聞くね」
「うん、私も魔法のスープ、作れるようになりたいから」
「魔法のスープ?」


復唱した砂岡くんは、くすっと笑った。
私もにっこりと微笑んで、「うん!」と大きく頷いた。
マッチ売りの少女の話をしようかと思ったが、きっと心配されるのでやめといた。


「あとはなにか、まだ聞いてないことない? 特別な隠し味とか」


と私が言ったとき、建て付けの悪い引き戸の音が、ガタガタと鳴り響いた。
字を書く手がぴたりと止まる。灰汁を取っていた砂岡くんと目が合った。
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