昨日の夢の続きを話そう
私はトマトピザとサラダボウルを、前田さんは焼豚丼を大盛りで頼んだ。身なりは気にしても、食欲は誤魔化せない。


「けど前田さん、さっきはちょっと慌てすぎでしたよ」


咀嚼したピザを飲み込み、思い出したらおかしくて、私は手を口元にあてた。


「笑わないでよー。だって私、イケメンに免疫がないからさぁ」
「またまたぁ。旦那さん、イケメンじゃないですか」


夏休み、一般の方に遺跡を見学してもらう集まりに、前田さんの旦那さんがお子さんを連れて来ていた。
すごくハキハキしたスポーツマンって感じの、優しそうなパパだった。お子さんをひょいって片手で抱っこして、とても頼り甲斐がありそうで。

理想的な家族だなあって、思ったっけ……。


「うちなんて、全然だよ! イケメンなんて言ったら調子乗って手が付けれなくなるわ。それより私、香澄ちゃんの彼を見てみたいな!」


サラダボウルを空にして、私はフォークを置いた。


「今度機会があったら、前田さんに紹介しますね」
「ほんと⁉︎ やったー!」
「あ、でもだいぶ歳上なんで、びっくりしちゃうかもです」
「ふふ、歳の差なんて全然オッケーよ。あ、現場の打ち上げの飲み会に誘ってみたら⁉︎ 作業員さんたちもみんなご家族誘って参加するって」
「ほんとですか? お酒好きだからきっと喜ぶと思います」
「打ち上げといえば、さ。香澄ちゃん、現場が終わったらどうするか決めた?」


お冷やを飲み、私は首を左右に振る。


「いえ、まだです」
「そう……」


雪が降る前、今月いっぱいで現場のバイトは終了になる。
春からまた募集があるかわからないし、あったとしても春まで食いつなぐために働かなきゃならないんだけど、現場の仕事が楽しくて名残惜しいのもあって、なかなか職探しに本腰を入れられないでいた。
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