昨日の夢の続きを話そう
「迷惑、だった?」


砂岡くんは私と目線を合わせるように、控え目な加減で首を傾げた。
潤む目で見上げると、砂岡くん切なげにまつ毛を伏せる。


「違うの。私、もう、失くしたくないから」
「え? 失くすって、なにを?」
「だって、もう会えなくなるでしょ? 私たち」


もう堪え切れなくて、瞬きをした私の頬には涙が伝う。
震える声をなんとか振り絞ったら、下を向いていた彼が、たっぷりと間をもたせる緩慢な調子で顔を上げた。


「え? 会えなくなるって……なんで?」


え ?

なんで、って……。


『それに俺、もうすぐいなくなるし』


って、言ってたよね?

お互いぽかんと見つめ合うだけの、沈黙の時間が約数秒間流れたあと。


「だ、だってほら、こないだ砂岡くんが、この仕事は長くは続けない、ほかにやりたいことがあるからもうすぐいなくなる、って感じのことを言ってたから……」


と、私が一生懸命しゃくりあげながら説明すると、砂岡くんはそのときのことを思い出したようで、だんだんと目が大きく見開かれていく。


「ごめんなさい、説明不足でした」


そしてぴしっと姿勢をただした砂岡くんは、申し訳なさそうに言った。

ちゃんと話してくれるというので、私も恥ずかしながらまた泣いてしまったし、気持ちを落ち着かせるために温かいコーヒーを淹れて、居間に隣り合って座った。

とても丁寧にお湯を注いで砂岡くんが淹れてくれたコーヒーは、お店で飲むのと同じくらい美味しくて、いつもの粉とは思えないなぁと。
私はうさぎみたいな、赤い目をしながら思った。
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