昨日の夢の続きを話そう
海風を切るように、海岸線を道なりに真っ直ぐ突き進み、隣市との境に差し掛かる手前。


「あのスープ、じいちゃんから作り方を教わったんだ」


窓の外の流れる風景を見ていた私は、鼓動がコントロールできない速さになってゆくのを感じた。

視線は一点に集中し、もうその建物以外はなにも目に入らない。

ひとつの可能性が、頭を占めている。

ウインカーが点滅し、史くんの車が駐車場に入る。バックで白線内に駐車する間中、呼吸がままならないくらい私はドキドキしていた。


「到着。香澄さん、お疲れ様」


軽やかにそう言ってギアをパーキングに入れ、エンジンを切った史くんは、その建物を真正面から見て硬直化する私を不思議そうに見た。


「香澄さん? シートベルト外したら?」


やっぱりそうだ。

絶対そうだ。


「……私、ここ、来たことある……」


えっ?と。
史くんはほとんど息で、発した。

ポスターで見たという記憶は、やはり間違いだった。一軒家という記憶も違ってた。
私は昔、このレストランに、たしかに来
た。三歳になってたかなぁ。おばあちゃんと、お父さんも一緒に。

どうして今まで忘れてたんだろう。
おばあちゃんの笑顔、お父さんとの会話。あのとき食べたマカロニグラタンの上の溶けたチーズも、私がお水を飲もうとしてこぼして、お気に入りのスカートを濡らしたことも。

そういう場面がパラパラ漫画みたいになって、頭のなかで鮮やかに蘇る。
断片的に、静止画として記憶していたひとつひとつが、まるでパズルのピースがぴったりとあてはまってゆくように、幸せだったときの思い出が新たに作られてゆく。

こぼしたお水を拭いてくれた、品良く微笑むとっても優しい口髭のおじさんシェフがいたっけ。あの人が、史くんのおじいさん……?
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