一途な小説家の初恋独占契約
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出版社の営業の仕事は、担当の書店を回って、在庫をチェックしたり、新刊や売れ筋の商品を提案したりすること。
本の売れ行きは、会社にいても数字の上では見ることはできる。
でも、実際にどんな人が買っていくのか、どんな場所にどんなふうにその本が置かれているのかは分からない。
なるべく外に出て、現場の生の声を聞くようにという営業の先輩の教えに従って、私もできるだけ実際に足を運ぶようにしていた。
元々本屋さんが大好きな私にとっては、嬉しい仕事だ。
外回りの最後に行くは、会社から徒歩10分ほどのところにある南北書店。
全国チェーンの大型書店だ。
会社から近いこともあって、用がない日でも、できるだけ立ち寄るようにしていた。
いつものように南北書店に行っても、つい探してしまうのは、ジョー・ラザフォードの作品。
DVD発売が間近に迫り、棚を組み直してくれている店舗も多い。
この機会に、グンッと売れてくれるといいんだけど……。
「……窪田さん。窪田さん?」
「あ、はい?」
振り返ると、南北書店のチーフ、生駒さんが心配そうにこちらを見ていた。
「何度か声を掛けたんだけど。体調でも悪い?」
「いえ、全然! すみません、失礼しました」
慌てて頭を下げると、生駒さんは、気にするなと笑ってくれた。
生駒さんは、南北書店の1フロアを任されている男性社員さんだ。
私の入社当時、営業部の社員が経験する書店での研修で、指導してくれたのがこの生駒さんだった。
それ以来、何かと気に掛けてくれていて、私にとっては自社の先輩社員並みに頼りにしている特別な人だ。
年齢は、20代後半。
確か、直島さんと同い年だと言っていた。
直島さんも、入社当時は営業部配属で、この南北書店にお世話になったと言う。
生駒さんとは、別の会社ながら同期のような存在だと言っていた。
その生駒さんは、私の手元を見て、僅かに眉を顰めた。