一途な小説家の初恋独占契約



ジョーの人気ぶりは、更に過熱していた。

取材の依頼は引きをきらず、ジョーと直接連絡が取れる清谷書房には、問合せが相次いでいた。

3日前までは、書店が用意していたサイン会の整理券は、ほとんど余っていたのに、この2日間で瞬く間になくなってしまったそうだ。
サイン会では、整理券がなくても、ジョーを一目見ようとした人が押し寄せ、警備員が何人も出動する自体になった。

書店でのサイン会なら、営業としてお手伝いしたこともあるから、他の仕事よりジョーの役に立てるんじゃないかと思っていた私は、甘かったようだ。

書店横のエスカレーターが人で埋まってしまって機能せず、拡声器で人を誘導しなければならないサイン会なんて、来たことがない。
会場となった書店は、ビルまるごと一つの本屋さんになっている大規模店舗なのに、入場制限をしなければならないほどだった。

大きなお店だけあって、こうした騒動には慣れていて、怪我人が出なかったことが救いだ。
それでも、他のフロアも含めて、大変な混乱だったらしい。

何とかサイン会を無事に終えて、会社に戻ろうとすると、今日も手伝いに来てくれた直島さんが、私たちを呼び止めた。

「ちょっと待て。会社から連絡が入った」

直島さんは、顔を顰めて、電話している。

通話を終えると、私たちに向き直った。

「先生。今日は、このままお帰りください。うちの会社の周りにも、先生のファンと思われる人たちが、押しかけているらしいんです。マスコミだったら帰ってもらうなり、会見の場を設けるなりして対応できますが、一般人じゃそうはいきません。編集部からお伝えしたいことは、メールさせていただきますので、騒ぎになる前に今日はお引取りを」
「分かりました」

私の方にも、そのままジョーを送ってから直帰するようメールが入ったので、会社に戻る直島さんとは別れることになる。
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