一途な小説家の初恋独占契約
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私たちは、多分きっと静かだった。
じゃれ合うように言葉を交わしながらデセールを終え、食後のコーヒーまできっちり飲み干し、レストランの人とも和やかにお話ししてからタクシーに乗った。
その間中、二人の視線はずっと絡み合っていた。
もっと早く、もっと近くに……。
そう願いながらも、互いに視線を交わすのが精一杯だった。
そうしていないと、心が飛び出てどこかに行ってしまうんじゃないかと思った。
せっかく通じ合ったのに、そんなもったいないことできなかった。
一文字一文字心を込めて10年間綴ってきたように、丁寧に向き合いたかった。
「……何だか、人が多いですね」
最初に気づいたのは、タクシーの運転手さんだった。
私の家に近づくにつれ、街中に人が増えていく印象だ。
周りは住宅街で、普段この時間には人通りが少なくて怖いほどなのに、何だろう。
「お客さん……ここでいいんですか?」
運転手さんが戸惑ったのも無理はない。
私の家の周りには、たくさんの見知らぬ人たちがいた。
女性が多いけれど、男の人もいる。
ほとんどの人が携帯電話に見入っているのが、薄暗い外灯と相まって異様な雰囲気を醸し出していた。
「ジョー……」
顔を顰めていたジョーが、私の手をギュッと一度だけ握る。
そして、先にタクシーから降りた。
「あっ、本当に来た!」
「ジョーだっ!」
「来たぞ」
閑静な住宅街が、途端に騒々しくなる。
黄色い声援に、興味本位の不躾な掛け声。
カメラのフラッシュや、携帯電話のライトが遠慮なく照らされ、目が眩む。