一途な小説家の初恋独占契約
「あら。窪田さん、ジョー・ラザフォードの写真、見てないの?」
「写真が出たんですか!?」
「シルエットと横顔……っていうか、ほとんど後ろ姿だったけど。あれは、かなりのものよ」
「全然知りませんでした」
「まだ日本では、ほとんど出回ってないからね」

ハリウッドスターにも辛口の評価をする宮崎さんがかっこいいと絶賛するなら、モデル級の美女なのかもしれない。

「なんだ。窪田さんは、それで気にしてたんじゃなかったのね」
「ええ、昔から好きで。実は、好きな作家に、少し文体が似ているんです」

文通相手の文章は、年々ジョー・ラザフォードに似てきていた。
ジョー・ラザフォードの作品を読むようになって、影響を受けているのだろう。

でも、中学の頃から文通相手の作品を読んでいる私としては、似ているのはジョー・ラザフォードの方なのだ。

「へぇ。その作家って、誰?」

実は……と話し始めようとしたところで、携帯電話が鳴った。

秋穂からだ。
業務上、直接的な関わりはほとんどない秋穂から、仕事中に電話がかかってくることは滅多にない。

宮崎さんと生駒さんに断りを入れてその場を離れ、店の隅で電話に出る。

「汐璃、今どこにいる?」

挨拶もせず、切羽詰った様子に、ドクンと心臓が鳴る。

「会社近くの南北書店さんだよ」
「今すぐ会社に戻って!」
「え?」
「うちの社の一大事なの!」
「ええ!?」

電話は、そこで切れてしまった。

会社の一大事だなんて、一体何なんだろう……?

用件は、見当もつかない。

ジョーの棚の前で待ってくれていた宮崎さんと生駒さんに、すぐに会社に戻らなくてはならなくなったと伝えると、またピクリと生駒さんの左眉が跳ね上がった。

「窪田さんもお忙しいんだから、仕方ないですよ。忙しいのに、余計な話をしちゃってごめんね」
「いえ、全然! こちらこそ、バタバタしてしまってすみません。明日、お手伝いに上がりますね」
「助かるよ」

最後は、生駒さんも機嫌を取り戻したように、いつもの穏やかな顔で送り出してくれた。

今日やろうと思っていた棚在庫のチェックは明日に持ち越すことにして、私は急いで会社へ向かった。


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